大会長挨拶
日本産業保健法学会学術大会も、今年で第5回を迎えます。そして、全体テーマは、「AIと産業保健法:DX時代の多様化した産業保健と法」となっています。
IT(情報技術)とAI(人工知能)は、コンピュータ技術としての共通点を有していますが、前者は、主にコンピュータシステムやネットワーク構築に利用されるのに対し、後者は、画像・音声認識、自動運転、医療診断等において、人間の認知や判断をコンピュータ上に再現するものであり、今後ますますその範囲が拡大されることが予想されます。そして、2040年頃には、汎用性を獲得して、人間の知能を超えた「超知能」(super intelligence)の出現を指摘する見解もあり、新たな哲学・倫理学や法学の構築が求められることも想定されます。
産業保健も、AIが機能し得る有力分野であり、健康診断やストレスチェックシステムの一元化、健康情報の効率的管理・可視化等による業務効率を向上させる等、その在り方にも大きな影響を与えるものと考えられています。それに伴い、医療情報におけるプライバシー確保、医療過誤の責任帰属といった従来からの問題に加えて、新たな医療倫理の確立、確立産業保健従事者の職喪失を含むAIの影響が課題となります。本大会では、以上のような産業保健法学が直面する新しい課題について、一方的報告ではなく、相互の意見交換としての活発なシンポジウムを期待しております。

日本産業保健法学会
第5回学術大会大会長
山田 省三
(東京弁護士会、中央大学名誉教授)